耳が不自由な人のためにテレビ番組や講演をパソコンなどで文字化して伝える活動に、放送局や行政から「待った」がかかっています。
訓練が必要な手話などより「情報バリアフリー」を容易にすると聴覚障害者に期待されていますが、著作権法や公職選挙法が新たな「段差」となっています。
人工内耳を使う障害者らの「人工内耳友の会」東海支部は一昨年から、メンバーの要望をもとにテレビやラジオの番組を台本のように文章で再現した「文字版」をホームページで公開。しかし、番組ごとに放送局に文字化の可否をたずねると、NHKは許可せず、一方で民放の多くは事実上、黙認。
著作権法では、著作権者が許せば著作物の複写や配布ができます。しかし、制作段階で出演者や取材対象に許可は得ていないのが現状です。
00年には、障害者からの要望で、主な障害者団体が放送中の番組に限って字幕をインターネット上に流せるよう著作権法が改正されました。しかし、同時通訳に人手がかかることや、放送後に文字化情報を残すことが認められないなど実用には課題が多いようです。
聴覚障害者の山田裕明弁護士は「公共放送が自らの著作権を優先するあまり、視聴者の知る権利に平等にこたえる使命を果たしていない。そのうえ障害者側の自助努力まで妨げるのはおかしい」と反発。
また、文字化情報は選挙でも法律に突き当たりました。
9月に投票された長野県塩尻市長選。市民グループ主催の候補者演説会では、聴覚障害者向けに候補者の発言をパソコンで文字にし、会場の大型スクリーンに映し出す予定でした。しかし市選挙管理委員会に問い合わせたところ、公選法が選挙運動に使うことを禁じている「電光による表示、スライドその他の方法による映写など」にあたるおそれがあるとされ、手話通訳などに切り替えました。
主催者は「文字化は高齢者にも必要。ぜひ認めてほしい」と選挙で使えるよう国に働きかける請願を市議会に提出。市議会総務委員会は全会一致で採択しました。
中途失聴者の立場から選挙参加への配慮を訴える国家公務員の田中邦夫さんは「公選法についての行政の解釈が実情に合っていないと思う。選挙民の公平性を、候補者と同じように考えてほしい」と話しています。
(12月18日/朝日新聞より) |