音楽は耳だけで聴くものではない。
聴覚障害者との交流によってそう気づかされた作曲家の佐藤慶子さんは、「音楽のバリアフリー化」を目指したこれまでのボランティア活動などをまとめた本「五感の音楽 音のない音楽への扉」を出版しました。
「全く音が聞こえなくても、例えばまつげや髪の毛で空間に鳴り響く音楽を感じることができる人がいるんです。感覚が研ぎすまされると、それだけ多彩な受け止め方ができる。私たちだって本来、そういう感覚と音楽との触れ合い方を知っているはずなのに、忘れてしまっているんですね」
佐藤さんは数年前、鼓の演奏家と、韓国の水墨画家、そして生まれながらに耳が不自由な俳優の3人の共演を見たのが活動のきっかけでした。
「聴覚に響く音はないけれど、目に感じる、心に響く音楽がある。私たちはサインソングと言っているんですが、彼らが手で歌うと、手から音符がこぼれて見える。ここはもう、歌う心が手に変わっただけなんです。ひとつの息づかいのなかで、耳が不自由な人もそうでない人も時空を共有できる。音楽の本来の在り方だと思いませんか。
最近、聾学校でも授業を音楽で取り上げる動きが出始めています。音楽は耳で聴くものという狭い見方をなくすことが社会を豊かにし、何より音楽をより楽しくするのではないでしょうか」
「五感の音楽 音のない音楽への扉」はヤマハミュージックメディア刊、1,800円。
(03年1月7日/秋田魁新報より) |