高知県の西部に位置する十和村。 人口は約3600人で3人に1人は65歳以上。 高齢化率は全国平均のほぼ倍になります。 総面積165平方キロの90%以上が山林で、村内を東から西に流れる四万十川と8つの支流に沿った谷あいのわずかな平地に住宅と田畑が点在しています。
93歳の池田静子さん(仮名)は5年前脳硬塞で倒れ、左半身が少し不自由です。 週3回、社会福祉協議会(社協)のホームヘルパーに掃除などを頼んでいます。 ご飯は自分で炊けるし、花の手入れもします。しかし、4月にベットから落ちて肋骨にヒビが入ったことで、一人暮らしに不安を感じ、「ヘルパーさんの姿を見ると安心する」といいます。
十和村は来春(2005年春)、休校になった小学校の校舎を改修し、池田さんのような一人暮らしのお年寄りのための集合住宅「生活支援ハウス」をつくります。 日帰りのデイサービスセンターを併設し、近くに痴呆性高齢者のためのグループホームもつくる予定です。
国が施設整備費を補助する支援ハウスは全国に400ケ所あります。十和村にもすでに1つありますが、要介護度が中程度から重度の15人が入居しており、介護施設のない村で、特別養護老人ホームの代わりになっています。
今度できる2ケ所目の支援ハウスは、要介護度が低く、家族や近所の助けがあれば、自宅で暮らせるお年寄りを対象にする予定です。
集落の人口減に加え、体が不自由な人が増え、隣近所で支えあうのが困難になっています。 それを福祉サービスでカバーしようとすると費用がかさんでしまいます。 一例となるのが、社会福祉協議会で7年前に始めた配食サービスです。 当初、職員が各集落まで弁当を届け、個別の配達はボランティアに頼もうと計画していました。 ですが、村には放射状に散在する小集落が53あり、最も遠い集落では中心部から車で往復1時間もかかります。
2人に1人が高齢者という集落もあり、ボランティアを頼める状況ではありません。 今は利用者が10人なので職員が直接届けていますが、利用者が増えれば、それも難しくなります。
支援ハウスへの移り住みは、こうした村の現状に合わせ、福祉サービスを効率化する意味もあります。
とはいえ、完全に支援ハウスに移ってしまうと、お年寄りが「張り」をなくす恐れもあります。 そこで、村は時折自宅に送り届けてしばらく過ごしてもらったり、畑仕事をしてもらうことなどを考えています。
酒井節夫村長は「介護施設で画一的な介護を受けたお年寄りが途端に元気をなくすことはよくある。2つの家を行き来し、活気を保ってもらいたい」と話しています。
(6月25日 朝日新聞)
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