障害者が働く「モデル工場」に。 そんな理想をかかげる企業が、大分県日出町にあります。 従業員の60パーセントが障害者という職場には、障害を克服して快適に働くための工夫が凝らされていました。
マイクロフォンやヘッドフォンなどのオーディオ機器を製造する「ソニー・太陽」(長田博行社長) ソニーが、大分県別府市の社会福祉法人「太陽の家」とともに1978年に設立しました。
手足や聴覚などに障害を持つ約120人が、約80人の健常者とともに社員として働いています。30歳モデルで月22万という給与水準や、労働時間は健常者と変わりません。
工場の天井に、「正木商店」「樋口商店」などと書かれた看板が下がっていました。 その下で、同じ名前の車いすや義足の障害者が、黙々とハンダ付けや包装作業に励んでいます。 「組み立てから包装まで一人でこなします。 だから彼らは個人商店主なんです」人事総務部の鶴嶋豊・統括部長が教えてくれました。
台などで工夫
4年前、流れ作業による「ベルトコンベアー方式」から、1人、または少人数グループで製品を完成させる「セル生産方式」に切り替えました。 在庫を残さず、必要な量だけを生産できる利点がありますが、1人でさまざまな作業をこなさなければなりません。 1人ひとりの障害にあわせて、作業環境を工夫する必要がありました。
両手が義手の奈良輪(ならわ)正也さんが、拡大鏡をのぞき、マイクロフォンに使う小さな部品を検査していました。 奈良輪さんのために開発されたのが、「エアスライダー」と呼ばれる円形の台です。 ホーバークラフトのように底部から空気を放出し作業デスクから浮くので、力のない奈良輪さんでも、見やすい位置に簡単に動かせます。
立てない人のためには、いすに自動昇降機を取り付け、聴覚障害者にはブザーの代わりにランプで工程の進み具合が分かるようにしました。
経常黒字
ソニー製のマイクロフォンの90パーセントは、この「ソニー・太陽」が製造しています。 「ビジネス面できちんと利益を上げることを親会社(ソニー)から求められている。」と鶴島部長。 実際、昨年度は約2000万円の経常黒字でした。
さらなる生産性向上のためにも、全社員が独力で製品を作ることを目標としています。 「それが実現すれば、他企業にもこの方式が伝わり、障害者の雇用の場が増える」と考えています。
車いすで作業をする「樋口商店」の樋口映子さんは、1日20〜30個のピンマイクを完成させます。「まだ車いすでは入れない場所もあって、手伝ってもらうこともある。全部1人で出来たら、もっとやりがいがあるでしょうね」と目を輝かせていました。
(8月16日 読売新聞)
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