高齢になると、目の機能が衰えてきます。視力が低下するだけではなく、暗さに順応しにくくなったり、色を識別する能力が低くなったりします。転倒事故などを防ぎ、快適に暮らせるように、色彩や照明に配慮した住環境づくりが広がってきました。
大阪府門真市の介護付き有料老人ホーム「ナイス・ケア大和田」では、フロアごとに床面や壁の色彩の系統を変えています。1階はベージュ、2階はグリーン、3階はピンク、4階はライトブルーです。
「入居者の8割に痴呆症状があり、白内障が進行している人も多いので、自分が住むフロアを分かりやすくするためです」と施設長の富田逸男さん。各階の共用トイレの扉は、壁から浮き上がって見えるソフトピンクです。
居室内の照明は、少し黄色みがかった柔らかい電球色の蛍光灯で、トイレの部分は、人の動きをセンサーが感知し、ゆっくりと点灯するタイプを取り付けています。光源が直接目に入ってもまぶしくないように、どの照明にもカバーを付けています。
高齢になると、様々な視覚機能が低下します。60代の視力は20代の半分程度。暗くなった時に開く瞳孔の大きさも、20代は8ミリ近くまで広がるのに、60代では6ミリ以下と、光を取り込みにくくなり、暗さに慣れるまでの時間も長くなります。
また、眼球の水晶体がしだいに黄色く変化し、青い光を認識しにくくなるため、青と黒を見間違えたり、ガスの青い炎が見えにくくなります。鮮やかな色も若者に比べると、やや鈍く見えるようになります。
公共空間の色彩計画の指針をまとめるため、国土交通省が2002年に、東京と大阪で行った調査によると、色の誤認率は、70代で約30%、80代では約半数に上りました。
財団法人日本色彩研究所(埼玉県岩槻市)の研究第一部課長、名取和幸さんは「家庭内の階段の段差や廊下の手すり、浴室の補助器具などは、周りと明るさのコントラストをつけた色にすると安心です。例えば階段が茶色なら、すべり止めは少し明るいアイボリーが分かりやすい」とアドバイスします。
さらに、照明を明るくすれば、色の識別力は随分上がります。高齢者に快適な明かりを研究している松下電工(大阪府門真市)によると、高齢者に必要な明るさの目安は若者の約2倍です。
ただし、「明るさとまぶしさの境は難しく、明るければいいというわけではありません」と、住宅照明事業部技師の吉成隆志さんは話します。水晶体が白く濁る白内障の人は、眼球で光が乱反射し、斜め方向からの光もまぶしく感じるからです。光源にカバーをつけたり、補助照明を必要な時だけ使ったりする工夫が必要です。
こうした高齢者の視覚特性に配慮した住まいづくりは広がっています。介護支援事業などに取り組むNPO法人「ゆにばっぷ」(大阪府豊中市)に寄せられる高齢者や障害者の住宅改修の相談は年間400件〜450件。事務局長で、福祉住環境コーディネーターの芳村幸司さんは「照明や色彩への配慮は欠かせません」と言います。
とは言え、玄関のスロープは入り口や上がり口の部分で色が違うと、段差があると錯覚するなど、色を変えない方がいい場所もあります。
「住宅改修の際などには、福祉住環境コーディネーターなど、高齢者の視覚特性を知る人に相談してください」と芳村さんは話しています。
(8月8日 読売新聞)
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